武道の神髄は自身の中にあり

「すくすく通信通巻5号掲載-2013年7月/15号掲載-2015年7月」に発刊された内容を修正掲載します。

指導をさせていただいている杉原と申します。
このような通信を通じてどのような指導や稽古を行っているのかを知っていただき、お子さんとご家族でのより本質的な対話につなげていただければと思い作成しています。
教室や道場で学んだことがご家族との対話と連動されたとき大きな効果をあらわすからです。
関心を持って干渉せず、強制するのではなく何度でも繰り返し指導する愛情こそが必要と考えています。
子供が成長するには時間がかかりますが、焦らず・あきらめず・楽しく指導しています。

武道の神髄は自身の中にあり

人が生まれて一番初めに自律的に向き合う相手が自分自身です。
そしてその心と身体の関係を追求していくことが稽古の原点となります。
自分自身をいい加減に扱っていてはそこで成長が止まってしまいます。
他者を尊重し生かすことは大切ですが、その為には自分を尊重し自分自身を生かすことが最初の第一歩となります。

道場訓に
「吾々は、自分を大切にし、自分を生かす道を選択します。」
とありますが、これは自分自身と向き合い、身体や能力を欲のために「利用する道」ではなく、身体の在り様を見いだし「生かす道」を歩む決意です。
みえる身体の在り様の中にこそ、みえない心を「生かす」ための答えがある(体在心知)と武道は考えます。

※「活かす」ではなく「生かす」としていますのは、「常用漢字表」で「活」の読みが「カツ」のみになったということもありますが、単に身体を活用するという意味よりも生命そのものを輝かせる意味を大切にしているため「生かす」としています。

動作イメージ

前にイメージによる身体操作を書きましたが、動作をイメージ化して間接命令すると動作の質が向上するという内容でした。
イチローなど天才的な動作をする人はほぼ間違いなく動作をイメージで説明します。
武術では「意識操作」と言いますが、何故、質の高い動作に繋がるのでしょうか。
理にかなった「意識(イメージ)」を創らずに反復練習をしてもあまり上達はできません。かえって故障の原因になる可能性が高まります。
一つは、「動作イメージ」をもつことで実際の動作に対する身体の準備ができることがあげられ、いま一つは、「意識」がイメージ命令をすることで筋肉など身体の細かな操作は「脳」が無意識に行いますので動作が合理的でスムーズになることが理由となります。
では、どのようなイメージが質の高い動きに繋がるのでしょうか。

実際に手で鳥の羽を演技してみましょう。
最初に意識的に両手を羽の用に動かしてください。次に目を閉じて実際には手を動かさず、イメージで手を白鳥の羽にしてそれを羽ばたかせてください。
何回か繰り返してイメージが定着してから目を開けて、実際に手を羽ばたかせてください。先ほどよりもスムーズにより軽く羽ばたけたと思います。 このように「イメージ力」がそのまま動作の質になることがわかります。

体のありようから自分を生かす道を探る

ではどのようなイメージでも体は質の高い動きをするのでしょうか。
もちろん、イメージせずにいきなり動いた動作よりも質は高くなりますが、体のありようを無視して勝手なイメージを振りかざしても本来の身体操作からは遠くなります。
この「体のありよう」を観察し、本質を見いださなければなりません。

空手には「正拳突き(パンチ)」があります。拳を握り締め相手にぶつけてダメージを与える動作です。
稽古次第では相手と自分の拳の距離が数cm でも相手を吹き飛ばすことができます。
この力を身につけるためには卓越した「イメージ力」と共に、長年の稽古の積み重ねが必要で簡単ではありません。

しかし一方では優しく触れたり、か弱い赤ん坊の頭を撫でることは稽古せずとも可能です。
よくみると手にとっては優しく動作する方が得意なのです。

面白いことに、ダメージを与える機械を作ることは比較的容易ですが、優しく触れる機械を作ることは困難で、人間以上のものは未だに存在しない程です。

そんな難しい「優しく触れる」動作を人間の手はいとも簡単に行えるのです。「手のありよう」をよくみてみれば、人を殴ったり叩いたり突き飛ばしたりすることに人間の手は向いていません。
もちろん人間の「顔のありよう」も殴られたり叩かれるたりすることではないことも明白です。

もし「優しさ」を基本とした「動作イメージ」をもって手を動かしたら、手はどんなすごいパフォーマンスを見せてくれるでしょうか。
子供達がこのように「体のありよう」をみて感じ、どのようにすることが自分を生かすことに繋がるかを見いだしてほしいと願っています。
道場の稽古はまさにこのことに気づかせることを大切にしています。

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